ガス人間第１号

「ガス人間第一号」　（１９６０年東宝）

監督　本多猪四朗　　脚本　木村武　　特撮　円谷英二

出演　三橋達也　　土屋義男　左卜全　八千草薫

◆・ストーリー

　大学へ行けずに航空自衛隊のパイロットになる夢も挫折して図書館書士になった
若者（土屋義男）が、野心的な学者によって騙されて、宇宙旅行目的の人体実験に使われ
、ガス人間にさせられてしまう。しかし、それを利用して変身し銀行強盗を重ね、
落ちぶれた日本舞踊の師匠・藤千代（八千草薫）に入れ込み貢ぎ、発表会の開催と結婚に
こぎ着ける。警察当局の追及を嘲笑うような行動を次々と取ってきたが、その発表会の会場
で発表会を終えた藤千代の悲壮な決断により事件は決着する。
◆・レビュー

　これは単純なＳＦ作品ではなく、ガス人間にされてしまった社会的な地位に恵まれない
男と、かつては栄華を誇っていたが、今は落ちぶれた日本舞踊の師匠との悲恋物語でも
ある。この話だけで、一つの物語を作れるほどの充実ぶりである。

　また、金の力さえあれば、手が届きそうもない地位と名声のある相手とも結ばれるかも
しれない可能性も示し、主要登場人物が要所で人間らしい情緒的な行動を取るのも興味深い。
そういう点で、人の生き方や倫理観に焦点を当てたドラマという側面も見られる。
　平凡な人間がガス人間になった結果、普通の人生では、手に入れられるはずが無かった
物を収める事が可能となるが、その代償として、無残な結末を迎えるという悲しさが全編を
通じて流れている。

　八千草薫の美しさと上品な振る舞いが素晴らしい。日本舞踊の師匠という役柄にぴったり
である。そして仕える左卜全の忠実で冒頓とした演技もはまり役だ。
　警察所に突如現れるガス人間の行動に関しては、突っ込みどころは多々あるが、それは
目をつぶり、話の展開を楽しむ事をお勧めしたい。また、捜査陣のリーダーである三橋達也の
シリアスな中で、時としてコミカルな役柄も愉快だ。

　他の変身物や怪獣物が原水爆実験の放射能の影響を受けているパターンが多いのに対して
、このガス人間は宇宙旅行の目的のための人体実験が原因となっているのが異彩を放つ作品
となっている。
　この作品は子供が観ても面白さが理解出来ないし、退屈に感じるシーンも多いと思うが、
大人が作った大人の鑑賞に堪える作品として高く評価したい。東宝がＳＦ映画を大人を対象に
制作していた頃の傑作である。


★・点数　９０点

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