感染 [医学]

◆・感染(2004年東宝)

監督&脚本 落合正幸  原案 君塚良一 主題歌 「夢」 奥田美和子
出演 佐藤浩市 高嶋政伸 佐野史朗 羽田美智子 星野真里 モロ師丘 
    南果歩 草村礼子 木村多恵 真木よう子

◆・ストーリー

 経営危機の病院、医薬品や器具、備品が底を尽きかけ、看護師も不足していた。
焦燥感の漂う中で、医療ミスで患者を死なせてしまうが、医師達は自己保身の為に
隠蔽工作を図る。そんな中、危険な未知のウイルスに感染した救急患者が運ばれてくる。
受け入れを拒否したのだが、研究対象として受け入れたが患者は肉体が溶けてしまう。
やがてドクターもナースも感染し、異常な行動と言動を残して次々と無残に死んでいく。
 一人残された秋葉(佐藤浩市)も感染しており発症する。一夜明けて病院に出てきた
中園(羽田美智子)は異様な光景に出くわすが意外な結末を向かえる。


◆・レビュー 

 非常に難解な作品であり、観た人によって多様な解釈がされるし、個々の受け取り方や
感じかたが違っても構わない。百人百様の解釈がされて議論になる可能性もあるが、
そのような事はホラー映画には多々ある。
 【ウイルスは人体ではなくて人の意識に感染するという大前提がある】
ただし入院や通院の患者達、救急隊員などは感染しない。経営がひっ迫し人手不足で
過労状態の中で焦燥感とストレスが蓄積した中での、同僚や患者に対しての自らの感情的な
言動や行動への懺悔や後悔の意識を共有しているドクターやナース達にだけ感染していく。
中園もまたすでに感染しており、秋葉と接触した事で発症したと考えられる。
【 感染のキーワードは「意識の共有」である 】

 救急車で運ばれてきた患者は収容されていないのに、救急口にはベッドが放置されて
居ないはずの患者が見える。実際には肉体が溶ける患者など存在していない事になる。
痴呆気味の老女(草村礼子)には「居ないはずの親類や知人が鏡の中に見える」
というシーンが挿入されている。これは、これから幻覚や幻聴が展開されるという事を示唆
しているのではないか。
【 「眼に見える映像は脳で作られた物」なのである 】
 次々と異様な光景が映し出され、常軌を逸した凄惨な死に方をしていくのだが、
 映像で表現されている現象と言葉自体が、実は「ウイルスが意識に感染した」
ドクターやナース達が観たり聞いたりした幻覚や幻聴であり、この作品を見ている者も
彼らの眼にした同じ幻覚を見せられているのだ。
彼らは医療ミスを冒し混乱、狼狽した時点で正常な判断が出来なくなり現実には違う事が
起こっている。それを知っているのは「狐のお面を被っている少年」だけなのだ。
 2人のドクターと4人のナースの惨殺死体が発見されたという事になっている。
ドクター秋葉(佐野史朗)は存在せずに、医療ミスで死亡させた人物を妄想化させたにすぎない。

 ラストシーンでロッカーから秋葉の腕が出てくるのは、この映画を見てる人達も感染して
幻想が見えてくるという恐怖の連鎖を与える効果を狙っていると思えば、ホラー映画には
よくあるパターンの一つであるし、また誰も乗っていないブランコが揺れているのも心霊現象
を連想させる手法の一つであろう。これはサスペンス映画ではなくてホラー映画だという事を
忘れてはいけない。

 この作品は難解なストーリーだが、医療現場を扱った作品らしく注目する場面はある。
 「未知のウイルスで症例を見るのが我々が初めてならば、最初の発見者になれる」
という名誉欲や野心に駆り立てられるのはあながち架空の話ではない。
例えば、アフリカや中南米あたりの風土病に掛かった場合など、日本では文献でしか
見る事の出来ない珍しい貴重な検体なので、学会で発表する為の実験台や研究材料に
されてしまう可能性が高いから、発症した場合には、治療は世界的な権威か、
現地の病院や医師の下で行う方が望ましいとされている。
 医療業界に関わった者ならば周知の事実であり、業界の裏&闇の部分である。

 それにしても、このように患者への対応が遅くて悪く、明らかにドクターとナースの
不足と疲労が見えて環境の悪さが明白な病院にしては患者が多すぎる。
こんな病院では治る病気も治らず悪化するだけだ。普通ならば病院を変えるだろうし、
悪評が重なって患者が激減すると思うのだが、ベッド数の少ない地域の大病院という
設定なのだろうか。ドクターやナースを個性溢れる役者達が巧みに演じているが、
痴呆気味の老女役を演じた草村礼子が最も印象的である。

★・点数 90点
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