恐怖劇場アンバランス 第10話「サラリーマンの勲章」 [恐怖劇場アンバランス]

◆・第10話「サラリーマンの勲章」

監督 満田かずほ  脚本 上原正三  原作 樹下太朗 「消失計画」より
出演 津島恵子  富士真奈美 横山リエ 梅津栄 中丸忠雄 鶴賀二郎 二瓶正也
    南 弘 神田隆


◆・ストーリー

 出世したくないサラリーマン「犬飼一郎」(梅津栄)は、課長昇進直後の早朝会議に遅刻
してしまい、ズル休みするが、悩んだ末に現実からの逃避を決める。良き理解者の宇多子
(富士真奈美)のアパートに転がり込み、一時の開放感に浸るが、潜伏先を部下に発見さ
れて連れ戻されてしまう。それまでの日常生活に戻され鬱状態になった犬飼は、家族や同僚の
混乱を顧みずに偽装自殺を企み、自らを社会から抹消し新しい人生をスタートさせようと試みる。


◆・レビュー

 豪華配役である。主役に梅津栄、妻の役に津島恵子、その妹には、まだ若い横山リエ、
飲み屋の女性に富士真奈美、会社の専務が中丸忠雄・重役に神田隆・係長に鶴賀二郎、
その部下に二瓶正也。このような個性溢れる実力派の役者達の演技を観る事が出来るのも、
昔のテレビドラマを観る時の楽しみの一つである。

 現実の社会でサラリーマンが、貴方にとって生き甲斐は何ですか?と問われて「趣味だ」
と答えて「定年退職した御爺さんみたい」と笑われ、バカにされたような経験はないだろうか。
現役のサラリーマンの間は生き甲斐は「仕事」と答えないと変な眼で見られる。働ける間は
、ひたすら働いて出世を目指す、趣味や癒しの場などは、隠居してから関わればよい。
そういう人生観を持った人達が長い間、日本を支配してきたし、そのような職業観や人生観
が当たり前だった。
 そのような社会では、サラリーマンの勲章とは昇進&出世というのが一般的な受け取り方
だが、その為に自分の時間⇒⇒人生を犠牲にすると言っても良いだろう。だが定年退職した
時に、初めて自分が出世のための奉職と過労で失った時間と若さと自由の大きさに気がつく
のだがもう遅い。なぜなら、それらはもう二度と戻ってこないのだから。

 ラスト「犬飼」が、喫茶店で一人、ノンビリ楽しそうにコーヒーを飲み鼻歌を歌う姿からは、
本当に満足感に満ちた幸せそうな雰囲気が漂っている。世間一般の人生観や職業観から
見ると、彼の姿と行動は、ドロップアウトした孤独な元サラリーマン、人生の落後者、社会の
失格者というように映り好感は持たれない。しかし、世間体に関係ない、その立場と空間、
時間、それこそが彼が最も求めていた勲章なのである。疲れを取り、癒しを与えてくれる
状態が必要だったのだ。そこには、自分自身で作り出す生活のリズムがある。
自分が生き易く感じる生活のペースがある。
そこまで一人の人間を追いつめてしまう日本の企業と社会構造とは一体なんだろう。
明らかに精神的に健全な社会ではない。自分の人生を自分で決められない社会だ。
実際に病んでいるのは彼ではなくて社会の方かもしれない。

 ストーリーテラーの青島幸雄が「この人はこれからどうするんでしょうね」と心配気味の
コメントを最後に残すが、そのような物の見方をすること自体が、実は病んだ社会を構成
する既存の人生観に立った人間の尺度から見た視点なのである。
彼も犬飼の心情は理解出来ないのだ。

 円谷プロ制作の「サラリーマン蒸発願望物語3部作」とでも形容したい共通したテーマで
作られている作品がある。いずれも現実に疲れて逃亡を図るサラリーマンを主人公にした
3作品だが、ウルトラQ第28話「あけてくれ!」では、柳谷寛演じる平凡なサラリーマンは、
偶然「空飛ぶ電車」に乗った事で、その存在を知り、異次元の別の世界への逃避を強く
願望するが、現状からは脱出できなかった。
 ウルトラQダークファンタジー第6話「楽園行き」では、佐野史朗演じる巽部長は「配達人」
を通して蒸発し、社会から消え地下の幽閉されたような空間で、同じ意思を持った人達と共
に世捨て人になるが安息の地には程遠い。

 この「サラリーマンの勲章」では、「誰も関与せず」に、偽装自殺で書類上は現世から消失
した事にするが、別世界や地下に逃げる事を望むのではなく、この社会に留まりマイペース
で生きていく道を選択する。同じ「現実逃避」「社会からの離別」でも、空想の世界を模索し
構築するのではなく、現在の社会の中で存在し続ける。現実的な対応である。

 梅津栄が、昇進&出世を嫌がる姿。昇進の通達に怯える姿⇒会議に遅刻して怯える姿⇒
葛藤して鬱状態になる姿⇒偽装自殺が成功して一人至福に満ちた姿。
それらの全く異なる精神状態に置かれたサラリーマンの変化していく姿と心情を見事に
演じきっている。そして上原正三の脚本を秀逸として記憶と記録に残しておこう。

★・点数100点
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