吸血鬼ゴケミドロ [吸血鬼]

 吸血鬼ゴケミドロ (1968年・松竹)

監督 佐藤肇 脚本 高久進 小林久三 特撮ビープロダクション

出演 吉田輝夫 佐藤友美 金子信夫 高橋正也 高英男 北村英三 
    加藤和夫 西本裕行 山本紀彦 楠有子

◆・ストーリー

 羽田から伊丹に向かい出発した国内線の旅客機に爆弾が持ち込まれたという連絡が入るが、
乗り合わせていた大使暗殺犯の寺岡(高英男)にハイジャックされてしまう。
赤い雲に埋め尽くされた不気味な空を飛行する中、突然、計器類の異常と共に謎の発光物体
と遭遇し山中に不時着する。寺岡は、スチュワーデスの朝倉(佐藤友美)を人質にとって
逃げようとするが、偶然見つけた空飛ぶ円盤の中に吸い込まれていき、宇宙生物ゴケミドロに
寄生されてしまう。生き残った乗客たちは醜い争いを繰り広げながら、恐ろしい吸血鬼ゴケミドロ
によって、一人また一人と次々と犠牲になっていく。
朝倉と副操縦士の杉坂(吉田輝夫)は、ようやく脱出に成功したのだが-――――――


◆・レビュー

 空一面に広がる赤い雲に、パックリと割れた人の額から侵入して寄生する液体状の
ゴケミドロ。不気味さ満点の衝撃的な映像である。そして絶望的なラストの映像。
オドロオドロしさに満ちた気味の悪い作品である。まさにSF&ホラー映画の原点の
ような位置づけがされても不自然ではない。

 一癖も二癖もある個性的すぎる人物ばかりが旅客機に乗り合わせているのが
ミソである。非常事態の中、個々の顔触れ、言動、行動事態がダイナミックで、
どう考えても、どう割り振っても、団結して一つにまとまりそうもない自分本位の
キャラクターばかりが登場するが、彼らのエゴと個性を見ているだけでも実に愉快だ。
 このキャラクター設定に関しては外国のパニック映画やホラー映画を完全に凌駕し
ている。基本的に常識的な人物は副操縦士とスチュワーデスの二人だけである。
そこに、かつて新東宝で二枚目スターだった吉田輝夫と佐藤友美の美男美女コンビを
据えて主役としたのだが、一癖も二癖もある他の登場人物達に完全に食われてしまって
いる。

 ニヒリストで極限状態を楽しみ、不安を煽り、皆を観察して分析する精神科医
「百武」(加藤和夫)自己中心的で、その場その場の状況に合わせて、エゴイズムに
基づき行動する政治家「真野」(北村英三)倫理に捉われず自分に都合よく瞬間的に
判断する能力は、ある意味、凄いひらめきだと思う。これが政治家の資質だろうか?
 一見冷静だが、危機的状況の打開に向けて何の役にも立たない自説を話す宇宙生物
学者「佐賀」(高橋正也)時限爆弾を持っている自殺願望の若者「松宮」(山本正彦)
自分の妻を政治家に差し出して、利益を得ようとする腹黒い実業家「徳安」(金子信雄)
実業家の妻だが、政治家の愛人(楠有子)

 ちなみに山本正彦は、かつて石立鉄雄主演のコメディードラマに間抜けな友人の役で
出演していたので覚えている人も多いだろう。楠有子は恐怖劇場アンバランスで死神の
役が印象的だった。

 外人女性「ニール」(キャシー・ホーラン)が英語で話すのだが、「戦争は嫌だ。皆が悲惨
になるから」「ここから早く逃げましょう」なぜか、この2か所だけ字幕が入るのだ。一体、
どのような意図が込められているのだろうか?戦争反対のプロパガンダでもやりたいのか?

 しかし、なんといっても極め付きは殺人犯役の高英男である。
役者ではなくてシャンソン歌手として、あまりにも高名な存在だが、役者顔負けの素晴
らしい演技である。さすが一芸に秀でた天才らしく、エンターテイナーとしての才能を見せて
いる。しかも自前で揃えたというサングラスと白の上下のスーツ姿は見事に決まっているのだ。
1968年当時、こんなに白の上下スーツ姿が似合う日本人は珍しかったのではなかろうか。
そして「暗殺者⇒吸血宇宙人」と完全に役になりきっている。
吉田輝夫に吸血寸前の所で佐藤友美が悲鳴を上げた途端、佐藤友美にターゲットを変更
するのは笑えるが、やっぱり首筋に唇を押しつけて血を吸うならば男性より女性の方が
良いからなのか?

 傑作なのが宇宙生物学者の唱える「宇宙生物実在論」である。
中身は今じゃ子供でも理解可能で当たり前のような事を、凄く学術的に価値のある重要な
理論のように仰々しく話すのに拍子抜けする。とても学問的に成立するとは思えないのだが、
制作当時は、まだUFOは笑い話か夢物語扱いでSFの評価も低かった時代背景を象徴する
ような理論である。ちなみに劇中ではUFOではなくて「空飛ぶ円盤」と表現しており、
アダムスキー型の円盤が登場する。 
 宇宙生物ゴケミドロは、結局何処から来たのか最後まで判らずじまいだ。
地球まで何光年掛かるとか、何処の星系に属するかとかは一切明らかにしない。
人類を皆殺しにするのが目的だから、どうせ殺す連中には、何も教えてあげないという事
なのか。


★・点数85点





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